クローン病の市民公開講座「クローン病ってどんな病気」  
大阪大学医学部附属病院   機能制御外科学 井上善文先生
2008.2現在 川崎病院 外科 総括診療部長をされております。
  炎症性腸疾患の耳袋 開発サイト

基調講演 HPN(Home Parenteral Nutrition ) その3
患者さんより、この質問に答えて下さいというメールをもらいました。まず最初の質問です。

小型のポートを使っていて、皮膚が赤くなって針をさす部分がなくなってきた場合、どうしたらいいですか?

 先ほどの話で2,000回刺せると言いましたけれども、刺せる部分をまんべんなく突いて2,000回なんです。この質問に対する答は、「まんべんなく広い範囲を突いて下さい」皮膚もどんどん弱くなりますからね。

 それから「大きなリザーバーを留置してもらって下さい」

これは、1年たって患者さんから抜いたポートのシリコンゴム表面です。シリコンが毛羽立って見えます。この人は上手に針を刺していたのですが、部分的には、全然刺せていないところが見られます。
次の質問ですが、困ったんですね。

ポートにつなげる際に針を皮膚に刺すのですが、血がとまりにくく困ります。

 答は、「押さえなさい」です。

次の質問です。

針が刺さっているのは判るのですが、ちゃんと刺さっているかどうか不安がある時があります。

 これは、輸液バックを心臓より低くして血液が逆流するかを調べます。ちょっと見たらすぐ戻してもらいます。(そのままにしておくと)詰まりますので。
 自然落下にして滴下の状況を調べます。このぐらいしか手がありません。

カテーテルに関する合併症のことを知っておいて欲しいんです。

 管理をするのでいちばん肝心なのは、熱が出ることです。カテーテル敗血症というのがいちばん怖いです。HPN(IVH)をやっている患者さんに外来でかならず聞くことは、「熱が出てないですか」ということです。

 このカテーテルというのは、心臓の近くまで入ってますので、感染を起すとすぐ全身性の敗血症を起してしまうという問題があります。

これも困った質問です。

カテーテル敗血症による高熱と風邪などによる発熱との見分け方はありますか?

 これは、じつは、誰も分からない訳ですけれども。僕の経験からひとついえることは、「輸液を開始して30分〜1時間で急に高熱が出る場合にはカテーテル敗血症による発熱の可能性が高い」

これはどういうことかというと、ポートの中に菌が巣を作っている。そして輸液を開始するとそれが血中に入る。それによって熱が出るということが言えるのですね。これは判別のひとつの手段です。

カテーテルを入れる時、鎖骨下穿刺といって鎖骨の下に入れる場合があります。この場合、ピンチ・オフ・サイン(Pinch-Off Sign)に注意します。

 これはどういうことかといいますと、これが鎖骨です。これが肋骨の一番上のところです。 鎖骨下穿刺というのは、鎖骨と(第一)肋骨の隙間を針で刺すんです。ところがシリコンというのは、けっこう弱い材質でありまして、ま、引っ張っても簡単にちぎれないんですけれども、切るという力に対しては、非常に弱いんです。 

ゴルフや野球をする人は、このピンチ・オフ・サインを非常に気をつけておかないといけないんです。もうひとつ気をつけておかないといけないことは、寝てレントゲンを撮った時と、起きてレントゲンを撮った時とは違うんですね。 鎖骨と第一肋骨の間でカテーテルが圧迫されていると、ある期間が過ぎると切れます。これは、日本で僕だけが経験したことですが、1年6ヶ月経った時に(ある患者さんが)「鎖骨の下が痛い」ということを言い出しました。 その当時は、論文が発表されてなくて分からなかったんですけれども、カテーテルを出してみますと、こうなっています。拡大するとこうなっていました。 これは、カテーテルが鎖骨下と第一肋骨に圧迫されて発生している。
 英語のフラクチャー(fracture)というのは、「骨折」なんです。これは、「カテーテルの骨折」という呼び方をされてます。 この方の場合は、一部しか切れなくてよかったのです。完全に切れるとカテーテルの先が心臓の中を通って肺に引っ掛かります。これも注意していただく必要のある合併症です。
これも、患者さんからの質問事項です。
カテーテルの合併症としては、皮下ポケット*5の感染があります。皮膚がだんだん弱くなって薄くなってくると、感染を起して、膿が出ます。こうなると完全に抜かないといけない訳です。 予防法としては、皮膚のあちこちを刺すことです。患者さんに話を聞くと一ヶ所痛くないところがあるらしいんです。そうするとそこばかり刺してしまう。
 もうひとつ僕らがいちばん嫌がっているのは、脂肪乳剤を入れてきちんと洗い流さないと、こういうふうな脂肪の塊がなかにできてカテーテルが詰まります。

*5ポートを入れるためにを皮膚の下に作ったスペースを言う。

「カテーテルを詰まらせないコツは?それから脂肪乳剤を使った後のメンテナンスについて教えてください。」

 脂肪乳剤投与に関連したカテーテル閉塞は、ポートの合併症で最も重要な問題です。
 できたらTPN輸液とは、別に投与すること。どうしても脂肪乳剤を投与する場合は、まず脂肪乳剤を入れておいてからTPN輸液に代えます。そして脂肪乳剤投与後は、多めの生理食塩水でフラッシュしてください。
それからTPN終了後にはかならず生理食塩水でフラッシュします。

HPN(IVH)の輸液交換ですが、ずっと持続でやるのと、1日のうちで夜だけやる方法の2種類あります。

ずっとやるも方法では、こうしたジャケットを使ってやります。ジャケットに輸液やポンフも全部入れてもって歩くようになります。

 間歇的輸液法は、夜だけ輸液を行います。1日必要な分をスピードを上げて夜だけでやってしまいます。

 昼間は、カテーテルをロック(輸液をしないで)した状態で会社に行ったり、学校に行ったりします。パチンコの好きな人は、パチンコに行って下さい。

HPN(IVH)の輸液交換ですが、ずっと持続でやるのと、1日のうちで夜だけやる方法の2種類あります。
こういう時に注意しないといけないことは、血糖の問題です。輸液を開始して30分から1時間ぐらいは予定投与量の半分でいって体を馴らします。1時間ぐらいたったらスピードを上げて予定量を流します。終わる時も予定量の半分に戻しで様子をみてとめます。一気に止めると低血糖を起します。
慣れてくると、僕のみている患者さんは一気に上げています。慣れてくるとうまいこといきます。
HPN(IVH)をできる施設というのはあります。かつては届出制だったのですけれども。今では、在宅医療をどんどん進めるということで届出制もなくりました。
僕が思っているのは、病院の中で中心静脈カテーテルの技術がしっかりして、カテーテル敗血症の発生頻度が非常に低い施設でないとやってはいけないと思います。
 これは、うまいことやると患者さんに非常に恩恵の高い技術です。合併症がありますので「やれやれ!」といって勧めるものでもありません。きっちり管理できる施設でやってはじめて安全で、かつQOL(生活の質)を高めることができます。

これは小野寺先生が書いたものなんですが、患者さんが頑張って管理すれば安全なレベルまで到達しています。

 だから主治医の先生と相談して、HPN(IVH)の適応と思ったら躊躇する必要はありません。自分が頑張ればそれだけメリットが得られる治療であります。(拍手)

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